ボクの好きなスウィング音楽
JON
SHOLLE/Catfish For Supper (VIVID SOUND VSCD-156) \2415
1930年代にニューヨークで爆発的に流行したスウィング音楽は、ラジオやレコードを通じて瞬く間に南部や西部でも盛んになった。とくに、石油産業で潤うテキサスの諸都市では夜な夜なダンスパーティーが開かれ、土地のカントリー・バンドがフィドルやスティール・ギター、バンジョーといったカントリー音楽の楽器をそのまま用いてスウィング音楽を演奏し人気を博したのだ。
これはジャズやロックのセッション・ギタリストとして裏方稼業の長かったジョン・ショールが1979年に発表したこの初めてのリーダー・アルバム。ウェスタン・スウィングを中心に、やはり30年代にパリで流行したジプシー・スウィングや、ケンタッキー州を中心とする少人数のカントリー音楽であるブルーグラス、黒人のブルース、ハワイアン、そしてブラジルのサンバと、さまざまなジャンルのアコースティック音楽にスウィング感覚をとりこんで、素晴らしい傑作アルバムに仕上げている。ぶっきらぼうなヴォーカルもレイドバックした味わいがあってステキだ。
「晩御飯にナマズを」というタイトルどおり、ジャケットでは南部の家庭料理を象徴する食材である3匹のナマズがギターの上でスウィングを踊っており、作品の内容を暗示しているのも気が利いている。
97年に18年ぶりの2枚目のアルバムが出されていたことを知り、八方手を尽くして見つけたら、全曲お勉強っぽいインストゥルメンタルでちょっとガッカリした。
マンドリン奏者のジェスロ・バーンズは1950年代にギタリストのホーマー・ヘインズとホーマー&ジェスロというコミック・バンドを組んで人気者だった。いまでも当時のLP盤が100ドルちかい高値で取引されている。それは、なにも珍しいからだけではない。コントの部分は差し置いても、あらゆるジャンルのヒット曲をパロって替え歌にするコンビの演奏力とセンスのよさとが今も変わらぬ支持を集めているからなのだ。もちろんスウィング感覚あふれるのアドリブもお手の物である。
1970年代の後半にブルーグラスのマンドリン奏者デビッド・グリスマンがブルーグラスとジャンゴ・ラインハルト流のジプシー・スウィングとを融合しドーグという新しい音楽ジャンルを旗揚げしたとき、「カントリー音楽のマンドリンとジャズの融合なら大昔からやっている俺がパイオニアだ」とばかり、ジェスロがバイオリンの旧友バッサー・クレメンツをゲストに迎えて発表したのがこのアルバムだ。
「Cジャム・ブルース」「アフター・ユーヴ・ゴーン」などのジャズのスタンダード曲を料理して、ギター、バイオリン、ピアノなどのソロ楽器と丁々発止のアドリブ合戦を繰り広げるジェスロの、コメディアン出身ならではのユーモア感や、アイディアあふれる展開、そしてトリッキーなまでの早弾きの技量には脱帽だ。
スウィング音楽がもっとも大きな影響をあたえた辺境の音楽としてハワイアンを忘れることはできない。ポピュラー音楽としてのハワイアンは20年代にスウィング音楽がハワイの伝統音楽と融合することによってはじめて成立したものであるからだ。
スウィング音楽としてのハワイアンの再生を70年代から目指す音楽家としてはボブ・ブロズマンが有名だが、スウィング本来のリラックスしたノリを表現するにはブロズマンの音楽はカタすぎると思っていたら、21世紀になってニューヨークからムーンライターズという4人組が登場した。二人の女性シンガーがウクレレ、スティール・ギター、生ギター、バンジョー、ウッドベースなどを用いたストリング・バンドをバックに20〜30年代のハワイのポピュラー音楽や同時代のティンパン・アレーの名曲、ブルース、そしてオリジナル曲などをゆったりと歌う。とりたてて、どうと言うことも無い編成。しかし、どこか新しい感覚が持ち味だ。
このバンドを結成する前に、それぞれのメンバーは、ノイズやメタルやインダストリアルなどの最先端のオルタナティヴ音楽をやっていたという。おそらくはルーツ音楽を解釈する新しい思考回路が新しい感覚を呼び込んでいるのだ。
ひとつ欲を言えば、初期のハワイアンにあった、どさくさまぎれの破天荒なハチャメチャ感をこそ再生させてほしいと思う。
SQUIRREL
NUT ZIPPERS/Hot (MAMMOTH MR-0137-2) \2800
ボクがネオ・スウィングに興味を持つようになるキッカケとなったのがこの「リスがどんぐりをガリガリーズ」というへんてこな意味の名前のスクイレル・ナット・ジッパーズだった。
かれらの音楽性を一言で言えば「猥雑」というコトバがふさわしい。
スウィング音楽が盛んであった30年代は、大恐慌後の禁酒法の時代であり、ギャングたちが闇黒街を支配するような時代だった。都市の闇の部分には、闇酒場、賭場、売春窟が栄え、そしてその闇黒街を演出するのもスウィング音楽の役割だったのだ。
かれらの音楽も、けっして、明るく楽しくといった健全なものではない。むしろ、ポスト・モダンと呼ばれる、価値観が多様化し、どこにも寄るべき共同体を見出せない現代の、いかがわしく、屈折した、都市のおビョーキ感を反映したスウィング音楽である。それはまさしく、刹那的な退廃が支配した30年代の都市の闇ともつながる猥雑感にあふれている。
この東海岸の6人組は93年結成というから、もうバンド歴12年というベテランだ。そしてこの作品はそんなかれらの代表作とでもいうべき97年のヒット・アルバム。すべてが本人たちの手によるオリジナル曲で、シングル・カットされた”Hell”(地獄)という曲はその年前半のオルタナティヴ・チャートを代表するヒット曲として評価された。
「モア・ソングス」とはいうものの、じつは本作がデビュー盤というLA在住のアコースティック・スウィング系女性シンガー&ソングライター。アルバムは2003年、2004年と一枚ずつのまだ2枚だから新人アーティストと紹介されてもおかしくは無いが、全曲オリジナル曲のこの最初のアルバムで、サーシ・リンクはじゅうぶんに個性的な歌世界を持っていることを証明した。
甘えたようなノスタルジックな歌い方は戦前のジャズ歌手に範をとったものなのだろうが、だれが主役というわけでもなくヴォーカルと渡り合うウッドベース、ギター、ドラム、ピアノにピッコロという5人組のアンサンブルの構成はモダンな感覚にあふれ、復古主義にはない創造性を感じさせる。古臭い衣装を現代的に着こなすレトロ・ヌーヴォーな感覚の持ち主といってよいはずだ。今は誰も使わない靴下止めの金具が映ったジャケットが妙にナマナマしく、このアルバムの内容を象徴している。
6月にわが金沢をはじめとして、全国6ヶ所で、かのじょのライブが予定されており、CD以上に生々しいパーフォーマンスが期待されるけど、ボク的には、チラリときわどく、クラシックな下着や靴下止めまで肌を見せてくれたらもっとうれしい。
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